2017 全仏に向けてのナダルと全英に向けてのフェデラーの違い
7月3日から開催される2017ウインブルドン大会においてフェデラーが絶対的本命に推され、それは丁度今年の全仏オープンでナダルが本命に推されたような印象を与えます。どちらにも対抗馬が見当たらないという論調から圧倒的な本命に推されている点では同じです。それはひとえに、本来なら彼らと競わなければならないアンディ・マレーやノバク・ジョコビッチが長引く不調から脱しきれない、あるいはその出口が見つからない事に起因しています。
それでは、彼らが同じように絶対的本命かと言われると少し疑問がある所です。
対抗馬がいないだけでなく、自分のテニス次第のナダル
2017年のクレーシーズンにおいて、ナダルは25戦24勝1敗という圧倒的な成績を収め、参加5大会中4大会に優勝。しかもグレード500、グレード1000を3大会、グランドスラムと全てグレードの高い大会において他を寄せ付けない圧倒ぶりでした。唯一ローマで敗れたティエムにも全仏のSFで心を折らんばかりの完勝劇で打ちのめしました。
ナダルの場合は相手のテニスどうこうよりも自分のテニスができるかどうかでした。序盤は一人相撲のようにミスを繰り返すも、ゲームやセットを積み重ねるうちに相手のサーブやリターンに対応し、相手がどう攻略しようが大事なポイントを許さない鉄壁ぶりと、異次元の粘りを披露しました。ナダルにとっては相手が誰であろうとも関係がなかった・・そんな強さでした。正に圧巻です。
フェデラー メルセデスカップの敗戦で対応を変えてきた
フェデラーの場合は自分のテニスができれば当然の如く勝てるとは思いますが、それ以上に相手に対応し、より確実な勝機を掴もうと試行錯誤している様が見れます。これは、復帰戦のメルセデスカップのトミー・ハース戦での敗戦を受けて戦術を見直したと本人も言及しています。
「グラスコートは早い展開のテニスをしていこうと思っていたが、それでは勝てない。早いテニスはもちろん、それ以外の部分で相手に対応する必要があり、試合勘がより必要となるだろう」
フェデラーの上半身の筋肉はこの3か月で更に肥大化し、本人が言う通りトレーニングの世界チャンピオンといわんばかりの鍛えようです。杉田と並んだ時のその肉厚ぶりからも、ただ休んでいたわけでないのがわかります。今後のツアーに休みなく参戦する事を表明していますが、それに耐えうる体力強化も余念がなさそうです。
その上で重要なのは本人も言及している通り、「試合勘」、試合中での対応をいかにするかは練習では培われない。あるいは実践から遠ざかると相手も成長しているため、ズレが生じる。やはり試合に出る事が大事だと力説しています。
そしてその対応力はゲリーウェバーオープンで見事に実践して見せました。
ミーシャ・ズべレフのようなサーブ&ボレープレイヤーには持ち前の速さを生かした攻めを、カチャノフやアレクサンダー・ズべレフのような気鋭の力強いストロークを持つ若手にはスライスを多用し相手のミスを誘う戦術を見せました。
その上で決勝では、スライスと強打やドロップショットを巧みに打ち分け、2ndセットほとんどミスを犯さなかったズべレフに完勝しました。
相手のテニスに対応する必要がなかったナダル(クレーコートでは)に対して、相手のテニスに対応して「労力を無駄に使わず」に2週間を勝ち抜く事をフェデラーは考えています。
それは全豪オープン。久々の実践で優勝はしたものの、錦織戦、ワウリンカ戦、ナダル戦とフルセットになった試合の反省点でもあるでしょう。特にワウリンカ戦やナダル戦では何かが違えば負けていた可能性も十分にあった試合でした。それほどの僅差の戦いでした。
しかしそれもそのはずで、復帰当時のフェデラーは「以前のようにテニスができるかどうか、はっきりとした自信はなかった。しかし復帰に向けた練習を入念に行う事によりその自信を取り戻していった」と言及する通り、試合ができる事の実感を掴むのに手一杯でした。
2週間の長丁場を勝ち抜くには全試合を全力で行くのは流石に厳しく、特に芝のような足元に不安があるコートでは怪我にも細心の注意を払う必要があります。
以上のような準備と実践を積んだ事により、戦術的に更に円熟味が加わったフェデラーは全仏のナダルと並び、アプローチこそ違えど全英での優勝候補であり続ける事は間違いないでしょう。