2018 ジョコビッチは全盛期のどれぐらい戻ったか? シンシナティーマスターズ優勝
8月のマスターズ2連戦、日本の錦織選手は、トロントでは1回戦でハーセに逆転負けを喫し、シンシナティーでは2回戦のワウリンカを相手に徐々にペースを失い敗れるという出来で不安を残しました。
一方のジョコビッチはウインブルドン制覇が本当の復調かが問われるハードコードシーズンで、初戦のトロントでは3回戦で成長著しいチチパスに逆転負けを喫してしまいましたが、2大会目のシンシナティーでは苦しみながらも優勝を飾り、9大会のマスターズを制するというゴールデンマスターズを史上初めて達成する偉業を成し遂げました。
A dream come true 🙏🏆@CincyTennis #GoldenMasters pic.twitter.com/nb9XL7nw2W
— Novak Djokovic (@DjokerNole) 2018年8月20日
決勝の相手はこれまでシンシナティーで3度も決勝で対戦して全て敗れてきたフェデラーでした。
しかし、今大会のシンシナティーは連日の雨天に見舞われて各選手待ち時間やダブルヘッダーなどの不安定な日程をこなしていました。その中でフェデラーの動きにもミスが目立ち、決して互いの真の実力がぶつかった決勝とは言えませんでしたが、それでも対戦相手として最高の相手に勝利してのゴールデンマスターズ達成にジョコビッチも握手後に思わず懇親のガッツポーズを披露しました。
バイダコーチ復活が起点となる
春先の無様なジョコビッチ
ジョコビッチ復活のキーマンとなったのは、バイダコーチとの復縁と見ても良いでしょう。それまでのジョコビッチは好不調の波が激しいだけでなく、一旦気持ちが落ち込むと粘りがなく、むしろうすら笑みを浮かべて投げたような仕草を見せる試合が散見されました。特に春先のマスターズ2連戦のインディアンウエールズでのダニエル太郎戦、マイアミのペール戦では本当にジョコビッチかと疑う程の信じられない覇気の無いプレイに終始していました。
バイダコーチ復帰の噂
そんな中、クレーコートシーズンに入ると同時にバイダが練習コーチとして一時的にジョコビッチの元に戻り、バルセロナオープンから正式にコーチとして戻ってきました。
とは言え、コーチ復帰が直にジョコビッチを好転させるという事でもなく、バルセロナでは初戦でクリザンにフルセットで敗れ、マドリードマスターズでは錦織戦に勝ちながら、次のエドマンド戦で自らコントロールを崩し敗れ、まだまだ復調とまではいってない姿を見せていました。
錦織とのラリーを起爆剤に
流れが変わりつつあるのを見せたのはローママスターズ。この大会でもまたもや錦織と対戦したジョコビッチは1stセットを錦織にペースを握られて落とすものの、2nd目から精密機械のような正確さと感情を落ち着かせてのプレイを見せ錦織に逆転勝利を収めました。続く準決勝でナダルと対戦し敗れるも、クレイのナダルにタイブレークに持ち込むなど、トップレベルに戻りつつある事を自分自身で確信したように思います。
迎えた全仏オープンではベスト16まで危なげなく勝ち上がるも、QFで伏兵チェッキナートに序盤からペースを握られ、さらにはアグレッシブなプレイで完敗を喫しラケットをおもいきり叩きつけるシーンもあった程です。しかし、以前のような諦めではなく、敗戦を心から悔しがるジョコビッチには以前程の迷いはないように見受けられました。
グラスコートで守備力がほぼ戻る
迎えたグラスシーズン、フィーバーツリーオープンではディミトロフを寄せ付けずに完勝し決勝ではチリッチに逆転で優勝を逃すものの、球足の速いグラスコートで執拗に追いかける守備力がかなり戻って来た事を示す大会となりました。
そしてウインブルドンでは、3回戦のエドマンド戦がキーポイントとなります。地元選手であるという事でエドマンドに歓声が多く、マドリードで逆転負けをしている相手という事もあり、終始ナーバスにプレイして安定していませんでしたが、3rdセット当たりから精密機械のような深いショットを連発し観客を黙らせました。
QFの錦織戦では、互いにセットを取り合うもプレイの安定度で上回るジョコビッチは3rdセット以降はラリーでも錦織を圧倒し、深いショットの連続で錦織のメンタルを折る形で完勝しました。錦織選手が言う以上に差のある試合でした。
そして準決勝のナダル戦はウインブルドンの歴史の残る名勝負となりました。1stセットの第1ゲームから激しくやり合う両者に目立ったミスがなく、互いにコーナーを突くショットを拾い合うなど激戦となります。結局2日間にまたがり計5時間にも及ぶフルセットの勝負は最後の最後でジョコビッチがサドンデスを制しました。
試合が終わった後は厚い抱擁があるなど互いをたたえ合う印象的な試合でしたが、この試合が決勝の前に事実上の決勝と誰もが思った通り、決勝では2度目のアンダーソンがジョコビッチを相手にロングラリーをほぼ制され、ジョコビッチは慌てる場面が1度もなく完勝で2年ぶりのグランドスラムの勝利を飾りました。
チチパス戦でやや不安な所を見せたものの
前述した通り、トロントでチチパスに負けた時には感情をあらわにする場面もありましたが、続くシンシナティーでは苦しみながらも優勝という結果を手にしました。
このハード2大会の戦いは決してウインブルドン程の戦いができたとは言えませんが、悪天候に左右されての優勝であり、またゴールデンマスターズ達成という偉業もあり、十分に満足するものだったでしょう。
プレイスタイルの変化
バイダコーチが復帰してからのジョコビッチはより感情を表に出すような所が出てきました。そしてその感情のむき出し具合は決して投げやりになってるわけでなく、勝利に向かって打開するためのものであったように思います。
シンシナティーQFのラオニッチ戦ではブレークを奪われ思わずラケットを叩きつけましたが、その後雑なプレイにはなりませんでした。
春先までのジョコビッチも感情を表に出す事はありましたが、その前後は雑なプレイになる事が多く、そして最終的には諦めたようなプレイとなっていました。その部分が大きく違うように見受けられます。
今後は威圧感を出しつつも心は冷静にというプレイスタイルでジョコビッチは行くのではないでしょうか。
その他については基本的には全盛期の自分自身のプレイをまだ模索している段階のように思います。
サーブは明らかに全盛期ほどのキレは戻っていません。しかし、ラリーでの粘りはかなり戻っております。これはフィジカルトレーニングをしっかりして戻しているという事が言えるでしょう。練習不足をベッカーに指摘されていましたが、今のジョコビッチの動きを見る限り練習不足という事はなさそうです。
更にはこれまで一本気になる事も多かったのですが、ドロップやロブショットなど多彩な攻めも見せています。全盛期のジョコビッチはそのような揺さ振りを必要としませんでしたが、この部分にも変化は見られるでしょう。
勝ちたい意欲は完全復活
サーブはまだ6割程、ストロークは7割、守備面では8割、というのが今のジョコビッチが全盛期と比較した場合の戻り具合と見ていますが、勝ちたいという意欲は100%に近いぐらいに戻っていると言えます。前述したプレイに変化を付ける動きや感情の出入りのコントロールなど、最終的に勝利するために行っている行動だからです。
全盛期ジョコビッチは勝つだけでなく、その勝利の仕方にもこだわりがありました。序盤で苦労する事なく圧勝し、ピークを終盤に持って行く感じでした。
今のジョコビッチは、序盤から相手を圧倒するという事はあまり考えていないように思います。とにかく勝つ。勝てれば苦労しようが、楽勝であろうがかまわない。そういう気概が見えます。
逆に言うと、ジョコビッチ本人が全盛期の動きに戻る事は難しいという事を確信しているのかもしれません。前以上のパワーを持たないと勝てない。今までは「そんなはずはない」という感情が先走っていたように見えます。今のジョコビッチは「そこ」を吹っ切っています。
とはいえまだ30になったばかりのジョコビッチ。フェデラーという40歳も間近に控えた老将が究極の省エネテニスを見ているわけで、今後ジョコビッチのプレイも変化する可能性は十分にあります。
いずれにせよ、勝つ気持ちを取り戻したジョコビッチを見れる事はテニスファンに取ってはこの上ない幸せのように思います。
錦織のチャンスは・・・
最も、錦織選手を応援する人にとっては非常に複雑な状況になったとも言えます。ジョコビッチだけでなく、この2大会ではワウリンカも復活を力強く見せつけています。若手選手もチチパスのような選手も出てきており、ズべレフだけを警戒するわけにはいかなくなっています。
とは言え、強い選手との対戦の方が力を発揮する錦織選手にとっては悲観すべきでもない状況にも見えます。
全米では優勝候補筆頭はフェデラーのままとの認識ですが、そこにジョコビッチ、ズべレフ、ナダル、第2集団のチリッチ、アンダーソン、第3集団としてワウリンカ、錦織、チチパス等、更には怪我が癒えれば上位進出が期待できるデルポトロ、ゴファンがどのようなドローとなり、試合を見せてくれるでしょうか。