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2018 新たなジョコビッチのベクトル 再び精密機械へ昇格

 2018年、10月初旬に中国で行われた上海マスターズ。そこでジョコビッチは全試合ストレートのみならず、1つのブレークも許さぬ完全優勝を成し遂げました。思えば今シーズン序盤のジョコビッチのプレイから想像するに考えられないスピードで一気にジョコビッチのプレイは安定感を取り戻しています。

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生涯グランドスラム達成の後

 元々のジョコビッチは攻守に隙の無い完全無欠のプレイスタイルでした。それはビックサーバーを相手にしても、ストローカーに対しても全く変わる事なく、しかし相手を研究し、相手の嫌がるプレイを当然のようにやってのける。その精密機械と言えるプレイのためか、感情を表に出すフェデラー、ナダルに比べて人気の面ではやや劣っている部分がありました。しかし、それだけ人間味が薄く、もはや超人という言葉がふさわしいプレイぶりでした。

 

 2016年にローランギャロスで生涯グランドスラムを達成し栄華をわが物といたジョコビッチ。

 しかし、その後ウインブルドンで3回戦クエリーに覇気なく敗れ、数々のトーナメント記録をストップさせたジョコビッチは、オリンピックの初戦で復活途上のデルポトロに敗れ大粒の涙を流す。

 そこからのジョコビッチは全米で準優勝はするものの、内容は棄権や欠場による勝ち上がりで全く本来の持ち味を発揮できず決勝ワウリンカに完敗してしまいます。

 

1位陥落、コーチ解任、練習不足、空回り

 

 その後のジョコビッチはこれまで相性の良かった相手にも次々負けていき、多くのディフェンスポイントを失った事で長く維持した1位の座もマレーに奪われてしまいます。

 2016年ファイナルはやや不安定なテニスながらもラウンドロビン突破後のSFで相性のよい錦織に6-1、6-1の圧勝で決勝進出、しかし勝ち上がって来たマレーに全く何もできない内容での完敗を喫しました。そしてその時のジョコビッチの表情が悔しさよりもややあきらめとも取れる柔和な表情をしていたのを心配するファンも多かったはずです。

 

 案の定その予感は現実の物となっていきます。

 

 2017年の開幕戦のカタールオープンでマレーに雪辱し優勝を飾ったものの、全豪オープンでは予選勝ち上がりのイストミンを相手にアンフォーストエラーの山を重ねてフルセットの末の逆転負けを喫してしまいます。

 南米シリーズではニック・キリオスに連続で敗れ、クレーコートシーズンでは復活を強く印象付けたナダルにマドリードオープンで敗れる。

 

 この頃にジョコビッチはコーチ陣を一新し、アガシ、ステパネクらが従事する形となる。

 

 そして迎えた全仏オープンではQFでクレーでの実績を引っ提げてきたティエムとの対決で1stセットの均衡した内容を制されるとそこからは糸を引いたようなテニス内容に終始し、3rdセットは何とベーグルでのストレート負けという衝撃的な敗戦をする。この時のジョコビッチの3rdセットの覇気の無さは悲惨を通り越して哀れにも感じる程で、ブーイングに包まれるシーンもあるなどの惨状であった。

 更にはウインブルドンではシードダウンの恩恵を受けてQFまで勝ち上がったものの、ベルディヒ相手に強度のあるテニスを迫られ肘の怪我を理由にウオークオーバーとなる。

 この時の怪我を理由にジョコビッチの2017年は終了し、年間ランキングは12位まで下落してしまいます。

 

バイダコーチ復帰

 

 2018年に復帰したジョコビッチのテニスは、しかしやはりまだ感覚的には戻っておらず、全豪オープン4回戦で韓国の若手チョン・ヒョンに、ジョコビッチにお株を奪う粘りのストロークの前にストレート負けを喫してしまいます。

 そして南米のハードコートシーズンではインディアンウエールズでダニエル太郎に、マイアミでペールに敗れるなど、成績的にもテニスの質的にもドン底に叩きつけられます。

 

 しかしこの頃、バイダコーチが復帰した当たりから徐々にジョコビッチのテニスに勝ちへの意欲が復活してきます。

 

 全仏オープンから全米オープンの期間でジョコビッチは徐々にテニスの質を復活させました。しかもそれは、これまでのジョコビッチよりも人間味あふれるテニスに変化していました。


 全米後のジョコビッチは「これまでの自分のプレイは振り返らないよ。自分のテニスは新たなステージに突入したよ」と語っております。

 この言葉を見る限りでは、自分自身のテニスはまだ完全ではないし、昔の感覚は戻っていない事に不満の様子がありありと見えます。そしてその原因もよくわからないという所でしょう。

 しかし、その事を考えても仕方ないと完全に割り切れています。そして結果が自分にどんどん自信を植え付けているという見方です。

 

上海オープンで見せた冷酷なジョコビッチ

 

 そして迎えた上海オープンですが、ここで披露したテニスは、今シーズン徐々に復活を遂げてきたテニスとまた違った内容を見せました。

 特に準決勝のズべレフ戦と決勝のチョリッチ戦で見せたプレイは圧巻の一言と言えます。

 

 ズべレフ戦、ジョコビッチはベースラインの左右の動きでズべレフの強打をことごとく拾いまくります。不可能と思われたショットをいとも簡単に対角に鋭くリターンしていきます。

 一度納得いかないプレイを見せると自分に大きな怒りをぶつけ、良いショットが出ても顔色一つ変えません。これまで自分を鼓舞してきたジョコビッチの姿がありません。

 SFズべレフ戦ではズべレフに対してほぼすべてのリターンを正確にコントロールし、1stセットで奪ったウイナーは僅かに2本ながらも高いサーブポイント率で全く隙がないプレイを見せると、2ndセットでズべレフはいつものように自滅していきました。

 これに対して決勝のチョリッチはより粘り強く、更には追い込まれても思い切ったショットをラインに沈めるなど好調ぶりを見せてジョコビッチに必死に食らいついていきますが、そのプレイをしてもほぼ完ぺきにリターンで返すジョコビッチに食らいついて1ブレークの差をキープするのが精一杯という所でした。

 

 この上海で見せたジョコビッチは正に全盛期のジョコビッチそのもののプレイと言ってもよく、おおよそ人間離れした感覚を会場内に充満させました。

 そのため、中国では絶大な人気を誇り、常に声援に包まれたジョコビッチの試合が、SF、決勝では非常に静まり返ってしまったのが印象的です。それだけテニス内容では次元が違うと思わせるものでした。レベルに差がありすぎる時に起こる現象ですし、ズべレフはともかく、チョリッチは最後まで素晴らしいプレイレベルをキープしていたにも関わらずです。

 

再びヒールぶりを謳歌できるか

 

 全米に入る前まではジョコビッチのプレイには泥臭さや必死さが存在していましたが、プレイレベルを取り戻したジョコビッチのプレイから人間らしさが徐々に消えていき、より研ぎ澄まされたプレイに昇華しています。

 一番戻りが遅かったサーブもしっかりと種類を分けて正確にコントロールされ、ストロークでは左右にしっかり対応し、強いリターンを正確にコーナーへ狙う事ができ、必要以上の運動量もキープしており、動き的には全盛期に近いレベルとなりました。

 

 ナダル、フェデラーに徐々に衰えが見られ、マレーの復帰に時間がかかり、ワウリンカ、錦織らもこのジョコビッチにまだ対応できない上、今回ズべレフ、チョリッチと若手の勢いもしっかり刈り取っています。

 

 これ程までに強いテニス、そしてそこに人間味が薄いとなると、今後はよりヒール色を持ったジョコビッチの姿となり、憎たらしい強さが今そこに存在していると言えます。

 

 しかし、それだけではダメです。やはり協力なライバルが必要です。

 ハードコートでようやく結果を出し始めたティエム、感情をよりコントロールする必要があるズべレフ、粘り強いストロークに攻撃性能を加えたいチョリッチ、ひたすらハードヒットで押しまくりたいシャポバロフ、強烈なサーブを軸にブレークを許さないプレイを完成させたいラオニッチ、粘り強いストローク、根性で勝負したいシュワルツマン、息をつく間もない早いリターンで攻めたい錦織、膝を克服しフォア、バックから強烈なバズーカーを武器とするデルポトロ、、、。

 

 それぞれの選手がそれぞれの色で打倒ジョコビッチの包囲網でテニス界を盛り上げていって欲しい所です

 

 

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